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2014年07月27日

『霞町物語』 浅田次郎より

『霞町物語』 浅田次郎

『霞町物語』 浅田次郎より

再再度、読了。

 1951年生まれの作者の青春時代が反映された作品。実体験にしろ、聞きかじりであったにしろ、生粋の江戸っ子で、ある程度お金持ちでなければその存在さえ知らないことも多々。勉強になりますた……orz。

 さすがは、直木賞作家。「すばらしい言い回し!」「かっこいい伏線!」と、うめいたことが多々。

印象に残ったことばを少々、

「霞町物語」……「ごきげんよう」・孔雀の羽のいろをしたドレス
「夕暮れ隧道」……波間に漂うクラゲのようになった女・「そっくりね、今日の私たち」
「青い火花」……「おめえは、やさしさが足んねえ。」・幸福な子供
「雛の花」……セピア色・「おおなりこま」
「卒業写真」……スチール写真・幸福な子供


 反面、カメラや写真に関しては、「これ、きっと勘違い」と時代考証してみたり、「それって、ど素人の考え」と毒ついてみたり。

 浅田次郎の実家は、写真機材の卸商だったとかカメラ屋だったとかいうWebデータが実在するところから、カメラや写真に囲まれた環境に育ったのだろうが、彼自身に写真撮影や化学的処理の実体験がほとんどないのがその原因と思われる。

 では、つっこみを少々。

1、「青い火花」で都電の花電車を撮るとき、祖父は自慢のライカでフラッシュを焚いている。このライカは1930年代の製品で板金作りの重たいものとこれ見よがしにあちこちで解説されているのだが、無改造のオリジナルならば、Ⅲaにシンクロ接点はない

※数年前までスタジオでマグネシウムを音付きで焚いていた頭の固い祖父が、ライツ(商標の関係で今はライカカメラ。ライツのカメラゆえのライカだから、「机上の上」同様の間抜けな会社名)に純正改造を頼むだろうか?

2、「青い火花」で、ストロボと称して、一発で焼き切れるフラッシュを使用している。カーブを全速力で走ってくる花電車は、フラッシュの特性(FP球は発光時間がスピードライトよりかなり長い。幕速の遅い旧式フォーカルプレーンでは当たり前のこと)により、中ぶれした光の筋や帯になってしまい、絵にならない。

※フラッシュの特性を逆手にとって、花電車を「流し撮り」したのだと、鉄ヲタなら考えるかもしれないが、これも「絵葉書みたい」という感動の声があるから、矛盾する。スポーツの報道・芸術写真ならいざ知らず、画質のよいフィールドカメラで静止物を切り取るのが基本である絵葉書に、流し撮りなどありえない

※「当時すでに骨董品扱いのライカとフラッシュを用い、驚異的なスピードで走る花電車を、たった1ショットでみごとに切り取った」というドラマを創ったつもりなのだろうが、写真を少しかじっていれば「ありえない虚構」とすぐに分かる。「絵葉書」と「一発で焼き切れるフラッシュ」を使わなければ、この話は破綻していなかった。

※ちなみに、題の「青い火花」という伏線により、2台のフラッシュとパンタグラフの青い火花が神様からのクリスマスプレゼントとしてシンクロしたという「夢のような仮説」も存在するのだが、これとてフォーカルプレーン(フラッシュを想定したFP接点はシャッター幕が全開していない状態で作動)のせいで見事に破綻している。

3、「青い火花」で、祖父による順ちゃんの写真が失敗作だったとき、僕が暗室を開けてしまったせいで撮り直しという芝居をするが、同時に父のフィルムを感光させてしまうという笑い話がある。直前に暗室内で赤いランプを使っているので、モノクロの印画紙を焼き付け中の事故ということになっているが、例えモノクロでも、赤い光の下でフィルム現像はできない

※プロが例え完全暗室を持っていても、フィルム用の現像タンクがなぜ必須かを考えれば自ずと答が出る。筆者がフィルム現像をしたことがない、あるいは全工程を見たことがないのは明白。

4、「青い火花」や「遺影」では、乾板(おそらく4x5inchかそれ以上のサイズのカットフィルムのこと)で肖像写真を撮っていた祖父が、最後の「卒業写真」ではライカだけを使っている。昭和40年代には、一般家庭にあまねく35mmカメラが普及しているから、乾板や120判ロールフィルムが使える中・大判カメラ(一般にビューやテクニカルと呼ばれる種類)や、ローライ(おそらく伝統的な二眼レフ・ローライコードかフレックス)は写真館において必須であるし、この作品にもそれらしき記述がある。素人ならいざ知らず、職業写真家がレンジファインダー式35mmカメラの縦位置でポートレートを撮るなんていう愚の骨頂を、1969年にやったとは思えない。ましてや、いつも首に掛けてあるライカには、ボケ味を楽しもうにも楽しめないエルマーがねじ込んであったはず。

※ボケが進行中の祖父は、もうライカしか使えなかったという「落ち」なのだとは思う。ライカでポートレート撮影は可能だが、レンズは90mmぐらいに換えるべきだし、バルナックライカゆえ、アクセサリシューにファインダーを追加する必要あり。そんな記述はまったくない。

※ちまたで大流行の自撮り写真が、なぜ不細工になるかが分かっている人は、少しでも写真を勉強したことがある人。画角が広いレンズで近寄れば、当然デフォルメが起こるので、顔のアップを撮ると、鼻が大きく耳が小さな写真になる。それを防ぐため、プロは長焦点レンズを多用し、離れた所から上半身像を撮るのだ。もちろん、自撮りでも、分かっている人は鏡に映った自分を撮影し、デフォルメを防いでいる例も散見する。逆に、建物内などの奥行きが狭いところで撮る集合写真では、デブは真ん中に位置していないと、より太って写ってしまう。さてさて、最後の問題は理解できたかな。両端に並ぶのはタブーよ。そこの奥様!

5、父の最新型のペンタックスがやたらほめちぎられる。1969年時点のペンタックスは安くて便利な一般カメラであって、プロがこれ一台と決めて使うカメラではなかった。この時期の一眼レフの世界一はNikonFだから、浅田家にペンタックスが一台あったに一票。ましてや、最新のSPならば絞り込みのTTL測光を内蔵しているので、最先端のスポットメータか伝統的な入射光式でもない限り、父が風景写真に常用している露出計は無用の長物。ただし、ポートレートが目的ならばセレンを用いた入射光式のそれは祖父が珍しく思うような機器ではなく、プロなら必須の道具で、露出計の記述についても矛盾。

※ペンタックスは、文中では安直な最新カメラというような、現在なら、「押すだけ」のコンデジや、カメラの歴史や言葉の意味を知らない人が考えついたに相違ない名称「ミラーレス一眼」にあたる扱いを受けている。ペンタックスの名誉のために書き添えると、SPは露出計が絞り込み測光のマニュアル操作なので、押すだけでは撮れないし、フォーカスも手動。電池が切れてもSLだと思えば使えた。要は、モノクロフィルムで、「今日なら、1/125秒のF8」と光が読める人なら、ライカもペンタックスもマニュアル機としての操作は同じ。

※「ペンタックスの名誉」なんて言葉を使ってしまったので、実はペンタックスにもプロユースのカメラがあったことを付記しておく。67だ。簡単に言えば、巨大な一眼レフ。ガンマニアなら、S&W M29(ご存知ダーティハリーの愛用銃)だと思えばよい。昭和初期のライカとは違い、たいした値段ではなかったから、その気さえあれば誰にでも買えた代物(僕の友人が持っていた)。しかし、片手ではホールドできない重さと、ショックがあるので、マニア以外の素人が手を出すことはない。ただ、このカメラがプロに存在価値を認められた頃には、霞町付近を走る都電は姿を消していたから、時代考証の点で難あり。また、父は首(普通は首と肩となんだけど……orz)から2台のペンタックスを提げていたそうだから、物理的にも無理。

6、「青い火花」のラストは、祖父の遺骨に供えた愛用のカメラ。「ライカの焦点は∞(無限大)の印に合わされていた。」でしめくくられるが、それが当たり前

※永遠のカメラマンという洒落のつもりなのだろうが、単純で稚拙。沈胴は別扱いとして、レンズを∞マークに合わせることと、レンズを最小サイズにすることは同義。カメラの携行や保管時にそうするのは当たり前のこと。かさばっていると、どこかで打ち傷を作り、最悪の場合は光軸が狂うから。

[おまけ]
仮に、『霞町物語』が映画化されるならば、明子(はるこ)は吉高由里子で決まり。彼女以外には考えられない。5年以内に実現すれば、映画館に足を運ぶよ……orz。

※2019/05/19
Webで見つけた「夢のような仮説」に対する反証と、6(∞)を追加。



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帯に短し、襷に長し。
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